伊藤英人の狩猟本の世界
250.『純粋な自然の贈与』中沢新一著、せりか書房、1996年
序盤の捕鯨の章では、狩猟行為が哲学的に定義される。「狩猟の本質は、交換と表象の経済学をこえている。」森の神と一体化している動物に内蔵されている「存在」を、富として物質化することはできない、とする。
森林や動物の社会的価値を、経済的に、結局は金に換算することに違和感があるのは、神の領域に入り、神を換金することにほかならないためであった。この価値を価値としてではなく、畏怖として心に刻み、換金せずに対峙できる狩猟者になりたい。
「狩猟がもたらす自然の富の本質についてなら、経済学よりも、狩猟民自身の考え方にたずねたほうが、ずっと役に立つだろう。」著者の狩猟民への敬意は、自称文明社会が長らく蔑ろにしてきたものである。この「価値」を認識し評価できれば、人間のつくる自然環境は大きく変わるはずである。