伊藤英人の狩猟本の世界

289.『WILDHOOD』バーバラ N. ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ著、土屋晶子訳、白揚社、2021年

289.『WILDHOOD』バーバラ N. ホロウィッツ、キャスリン・バウアーズ著、土屋晶子訳、白揚社、2021年

大人と子供の間という、最も不安定な時期の動物行動。この時期を、日本語の「青年期」をヒントに著者はwildhoodと名づけた。驚くほど人間の「若いヤツ」と同じで、数多の試練を乗り越え、成長し、大人になっていく。親から見れば教育そのものである。

青年期に立ち向かう大きな試練は4種類で、safe(安全)、status(社会的地位の確立と維持・向上)、sex(性)、self-reliance(自立)である。これらの難題を、同時期に、失敗を繰り返しながら乗り越えていかねばならない。若キングペンギンの危険海域での移動、若ザトウクジラの性行動、若ハイエナの群れ内での階級争い、若オオカミの独り立ちについて、それぞれが章立てしてある。青年期は一般に研究データの蓄積が難しく、必然的に個体の観察調査に基づいており、物語調の記述がメインとなる。

野生動物にとって命がけのシビアな状況となるが、昨今の人間の若者の環境もなかなか厳しいようだ。ライングループやSNSのやりとりで自己を保ち、見極め、アピールする。ネットワーク上での人間関係やバーチャル体験の学びは増えたかもしれないが、実際のところ何ができるのか、指だけ動かし脳を騙しているだけではないか、と親心で心配してしまう。

親は、青年期の子を守りつつ、危険にさらす義務がある。長期の過保護は悲惨な結果を招く。また、効率的な指導は、自立の成功率を高める。子の幸せを願いながら、過度な干渉や先導を自重し、温かい眼をもって危険にさらしていきたい。

アニマルウェルフェアの「5つの自由」では、過度のストレスから守るなど過保護の方向にいきやすいが、適度なストレスが必要ということになれば、ストレスの除去だけではない配慮もいるため、修正を迫られそうである。かといって捕食者を投入するわけにもいかないが。

青年期の獣は、狩猟対象として絶好の捕獲チャンスといえる。好奇心やチャレンジ精神を逆手にとり、クセのあるワナをしかけたい。ただし、この時期に仕留めそこなって狩猟者の危険を学ばれてしまうと、その後の生存率を高めてしまう。シカなどの群れで行動する動物は、他個体からも情報を受け取り共有している。シカにロードキル防止講習会ができるならこの時期か。群れの前でぬいぐるみをはね飛ばすとか?