伊藤英人の狩猟本の世界

282.『イシ 北米最後の野生インディアン』T. クローバー著、行方昭夫訳、岩波書店、1970年

282.『イシ 北米最後の野生インディアン』T. クローバー著、行方昭夫訳、岩波書店、1970年

20世紀初頭までに植民者たちの手で滅亡させられた米カリフォルニア州の先住民族ヤヒの最後の1人となった男性イシの末路。博物館内に展示されながら狩猟具等を製作し、そこで徐々に社会生活もしながら、死ぬ。手塚治虫の作品に、少し視点の異なる「原人イシの物語」があり、249『手塚マンガでエコロジー入門』に収録されている。

著者(人類学者の妻)からみると、イシの狩猟は現代人のものとは共通点がないらしい。「現代人はスポーツとして狩猟し、取った獲物を無駄にする。殺した動物には用はなく、殺す行為に一時的に激しく従事するのが目的なのである」。現在の倫理基準では、当時のアメリカ人の狩猟はひどすぎる。そして、そっち側の人々が征服し、尊敬すべき人々が滅んでしまった。

インディアン殲滅の様子は、黒人奴隷狩りにも増してひどい。現在の個体数調整のシステムと似ていて、捕獲者がイノシシの尻尾を行政に提出するように、インディアンの頭の皮を剥ぎとって行政に提出する。現在のアメリカにはヴィーガンもいるが、当時はインディアンのモモ肉を食べている。そしてなぜか首狩りがインディアンの悪習であるかのように話がすり替わっており、ちょっと前まで日本のディズニーランドに首を売るインディアンのお土産屋さん(レプリカ)があった。

著者らはそんな白人からイシを保護し、守り、記録を残した。イシの狩猟法や狩猟具製作の記録がある。弓矢の精度を維持するため、素材選びはもちろん持ち運びに至るまで気を遣っている。獣ではなく「白人」に見つからないよう、極力音を立てない生活や猟法を長期にわたり強いられていた、というのがとても悲しい。