赤坂猛「シカ捕獲認証制度(DCC)への歩み」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第2回 シカ条例とシカ・ネットが目指した人材育成・制度設計

2010年4月、道庁が主導し設立した官民からなるエゾシカネットワーク協議会(以下、シカ・ネット)が鋭意取り組んだ「人材育成事業」(捕獲専門家の育成及びその制度設計等)は、特段の成果をみることなく2013年3月に閉じられた(第1回)。しかし、我々は、閉じられたものの当時道庁で策定中の「エゾシカ対策条例(仮称)」に上記人材育成及び制度設計等に係る条文が盛り込まれる(はず)と考えていた。

今回は、2014年4月に施行された北海道エゾシカ対策推進条例(以下、シカ条例)とシカ・ネットが目指した人材育成等の関わりについて触れる。

新たな計画推進部会とシカ条例

シカ・ネットが閉じられる約1年前の2012年5月、道庁はエゾシカ保護管理検討会に新たに「計画推進部会(以下、部会)」を設置し、当時庁内において検討途上にあったシカ条例案について、部外者による検討も併せて進めることとした。部会には、筆者も含め道内外より6名(うち4名はシカ・ネットの関係者)の委員が委嘱された。

部会は同年6月と11月に開催され、道の提示した「シカ条例案の基本的な考え方」等について種々議論が始められた。当初、2012年度には4回程度の開催とされていたが、道の条例策定スケジュールとの関係上、部会の意見を早急にまとめる必要性が生じた。そのため、急遽部会の意見をとりまとめ、「エゾシカ対策条例(仮称)の基本的な考え方に対する提言」として2013年1月に道庁に提出した。

提言では、条例に盛り込む11の事項を整理し、うち1事項として、当時進行中であったシカ・ネットの人材育成事業を踏まえ、「(3)担い手の確保」として、捕獲技術者や野生鳥獣の保護管理を専門とする行政職員の育成等について資格制度の創設等も含め提示した。

この提言は、部会の第3回以降において事務局(北海道)とも議論されるものと考えていた。しかし、部会の開催は、2012年度は提言を出す前の2回のみにとどまり、翌2013年度に至っては知事から委嘱はあったものの1度も開催されることはなかった(道からの説明も皆無であった)。要するに、提言は1度も部会「議論」の俎上に載せられることはなかった。

シカ条例

道庁より部会に付託された「シカ条例案の基本的な考え方」の議論・審議等が中断・放置されたまま、シカ条例は2014年4月に施行された。

北海道エゾシカ対策推進条例(平成26年北海道条例第7号)

全22条からなるシカ条例のなかで、エゾシカ問題に関与する担い手の育成等に関する条文は、第10条及び第16条である。第10条(捕獲等の担い手の確保)では、捕獲者の確保に努めるとともに専門的な知識や技術向上のための研修の充実、被害防止等に資する捕獲体制の仕組みづくり、さらには道外狩猟者の活用に向けた措置を、また第16条(人材の育成及び活用)では、地域でのエゾシカ対策の企画・推進等を行う人材の育成等に必要な措置が、それぞれ明記されている。

これらの条文から道の目指す「人材育成」のありようを推察することはできるが、ここでは紙幅の関係上、先へと進みたい。

シカ・ネットとシカ条例

道庁は2010年度、「趣味の狩猟とボランティアの有害駆除だけに頼った体制ではエゾシカ生息数を減少させることは不可能」とし、エゾシカの個体数管理に向けた抜本的な対策として「第3の柱として専門家による捕獲体制の構築」を打ち出した。その具体の取り組みがシカ・ネットの人材育成事業であった(2010年5月14日全道エゾシカ対策協議会)。「捕獲専門家や鳥獣保護管理を担う人材養成のための制度設計、カリキュラム作成のため、情報収集や専門家との協議を踏まえ、試験的に研修等を実施する。また、担い手を確保するため、道内各地で説明会等を実施する」とまで踏み込んだ内容だった。

問題は、現行のシカ条例に、この事業がどのように引き継がれているか、ということである。すなわち「人材養成のための制度設計」「カリキュラム作成」が現在、道のエゾシカ行政のなかでどのように対処されているのか、ということでもある。

次回は、野生動物問題を担う「人材の養成」に果敢に取り組んでいる先進県を紹介したい。


初出 エゾシカ協会ニューズレター第40号(2016年3月)