赤坂猛「シカ捕獲認証制度(DCC)への歩み」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第10回 欧米の「野生動物行政を支える専門官」

本連載では、野生動物の保護管理を担う人材の育成や制度設計等に関し、我が国の官・民の先進的な取り組みをとりあげてきた。今回は、欧米の「野生動物行政を支える専門官」について紹介したい。

カナダ・アルバータ州政府の「専門官」

カナダ・アルバータ州は、ロッキィー山脈の東方山麓に広がる高原の州である。雄大な針葉樹林が覆っており、多種・多様な野生動物が生息している。面積は北海道の8倍、人口は約440万人(2019年現在)である。北海道庁と永年にわたり姉妹提携を結んできている州でもある。

Government of Alberta Fish and wildlife

さて、アルバータ州政府の野生動物行政機関に配属されている専門官は表のとおりである。これら約160名の専門官は、アルバータ州政府の本庁部局(エネルギー天然資源省・魚類野生動物部)や地方の魚類野生動物地方事務所等に配属されている。アルバータ州の副都心・カルガリーにある上記事務所には、管理官4名、研究官4名、技術官1名の計9名が配属されていた(赤坂 1986)。

なお、2011年度のアルバータ州政府には、管理官140名、研究官20名、技術官3名の総勢163名の専門官がいる(西條 私信)。

表 カナダ・アルバータ州政府野生動物行政機関の専門官(赤坂 1986)

職名 業務

Fish&Wildlife Officer
魚類・野生動物管理官

野生動物の保護管理全般に関する業務、狩猟の許認可業務及び猟場などでの監視等業務、狩猟者が捕獲したオオツノヒツジやヒグマなどの検査業務など

Wildlife Biologist
野生動物研究官

狩猟動物などの生態などに関する調査研究業務

Wildlife Technician
野生動物技術官

野生動物研究官の調査への各種技術支援などの業務(捕獲手法や行動追跡への技術開発など)

 

欧州・スイスの「専門官制度」

スイスは連邦制の国家で、26の地方政府(カントン:Canton)からなる。野生生物の保護管理行政は、中央の連邦政府と地方のカントン政府に配属されている約200名の専門官(Warden:保護管理官)により進められている(注)。

例えば、首都ベルンが所在するベルン・カントンには、Biologistでもある以下の3名のWardenが配属されている。

3名のWardenの配下には、総勢で約50名の職員が配置されている。なお、これらの職員は、Biologistではないが十分に教育された職員である。

Game Wardenは、毎年、狩猟鳥獣の個体数調査を実施し、その結果をふまえて狩猟計画をたてる。隣接する複数のカントンに生息分布する狩猟獣・アイベックスについては、カントン間で協議して狩猟計画を定めるが、その際、連邦政府も必要に応じて協議に参加するという。九州とほぼ同面積のスイスには、約200名のWarden(保護管理官)がいる。

紙幅の関係上、カナダ・アルバータ州とスイスについてのみご紹介したが、これまで筆者が視察した欧米8カ国の野生動物行政機関では、押しなべて「専門官」が、洗練された刊行物資料などで対応してくださった。

ひるがえって我が国は──。

国・地方すべてにお願いしたい。先進諸国の専門官制度から謙虚に学んで頂きたい、と。


(注)「スイスの専門官制度」については、筆者がスイス連邦政府・森林環境局において1994年11月25日に実施した聞き取り調査によるものである。

引用文献


初出 エゾシカ協会ニューズレター第48号(2020年3月)