赤坂猛「シカ捕獲認証制度(DCC)への歩み」
  • あかさか・たけし
  • 一般社団法人エゾシカ協会代表理事。

第3回 「鳥獣管理士」、栃木県の人材養成への挑戦

この連載の冒頭(第1回)で、筆者は「ここ十数年、北海道ではエゾシカも含めた野生動物問題を担える専門家のありようについて、官民を挙げて種々議論や検討、試行が繰り返されてきた」と記した。実は、この「北海道の十数年」の間に、栃木県では、野生動物問題を担える人材の養成とその資格制度を創設し、多くの人材(鳥獣管理士)を輩出してきている。以下、栃木県の「挑戦」を紹介する。

栃木県の人材養成事業

里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム(以下、養成プログラムとする)は、鳥獣害の専門的な知識と技術を備え、地域で指導的な役割を果たすことのできる人材を養成することを目的とし、宇都宮大学及び栃木県庁が連携し進めてきたものである。本養成プログラム事業は文部科学省の支援を得て、2009年度より5年間取り組まれた。

里山野生鳥獣管理技術者養成プログラム

この養成プログラムでは、大学での講義(野生鳥獣管理学特論など)と演習、近隣の里山での実習、関係市町村でのインターンシップから「カリキュラム」が編成されている。養成プログラムの修了には、必要な単位を取得した上で、修了課題に合格することを要件とし、修了者には鳥獣管理技術協会(宇都宮市、任意団体)から「鳥獣管理士」の資格が授与される仕組みとなっていた。

ちなみに、本養成プログラムには、初年度(2009年)は39名、翌年度は31名の受講生が集った。受講生計70名の職業構成は、会社員17名(24%)、公務員16名(23%)、学生11名(16%)、自営業9名(13%)などであった。公務員16名は、全員が栃木県内の市町職員であった。

養成プログラム事業は2013年度で終了したが、本養成事業等は鳥獣管理技術協会(2013年に一般社団法人となる)に引き継がれ現在に至っている。協会では、上記のカリキュラムに代わる「鳥獣管理士養成講座」等を開催し必要な人材養成事業に鋭意取り組んできている。なお、鳥獣管理士の資格には、習得した知識・技術や現場経験のレベルに応じて1級から3級の資格級が設定されている。

2016年1月現在、鳥獣管理士は、116名(男性96名、女性20名)が登録されており、その所在は栃木県の73名、茨城県及び埼玉県の6名、群馬県5名など19都府県と全国的な広がりをみせている。遠くは、秋田県や大分県の登録者もみられる。「鳥獣管理士は、それぞれの地域で行政機関や猟友会とも連携しながら、地域に根ざした活動をおこなっています」と上記協会のHPに記されている。鳥獣管理士制度などの詳細については、協会のHPをご覧いただきたい。

一般社団法人鳥獣管理技術協会

栃木県と北海道の取り組み

野生動物問題に対峙していくためには、多くの「担い手・専門家」が必須である。先の養成プログラムの開発者の一人である宇都宮大学の高橋俊守氏は、栃木県内の野生鳥獣の現状を踏まえ、「鳥獣害対策の専門的な技術者の養成と各地域への配置」が必須と明言されていた。

2010年4月、北海道が主導し取り組んだエゾシカ・ネットワーク協議会の人材育成事業では、捕獲専門家及び野生鳥獣保護管理者の育成とその制度設計を目指したものの、主たる成果を得ることなく2012年度に閉じられたことは、第1回で触れた。栃木県が2009年度より実践し養成してきた「鳥獣管理士」は、北海道が目指そうとした「野生鳥獣保護管理者」に相当しよう。

栃木県内には、既に73名の鳥獣管理士が配置され、それぞれの地域において活動されていることは先に記した。1市町あたり約3名の鳥獣管理士が配置されたことになる。栃木県の養成プログラムが始動する前年(2008年度)、県の野生鳥獣による農業被害額は4.2億円であった。対する北海道のそれは、46.7億円であった。被害額の多寡での物言いではあるが、人材養成に対峙する「彼我」の落差に呆然とする。

人材育成に最早一刻の猶予もない、はずである。

次回は、「北海道議会と人材育成等」について取り上げたい。


初出 エゾシカ協会ニューズレター第41号(2016年10月)