2024年2月20日
警察庁の説明を受けて
~エゾシカ協会・ヒグマの会からの懸念事項とその回答~
一般社団法人 エゾシカ協会
ヒグマの会
銃刀法改正法案におけるハーフライフル銃をライフル銃とみなす件について、これまでエゾシカ協会、ヒグマの会ともに法案に反対する声明と要望を提出してきました。北海道猟友会などの団体も同様の声明を発表してきました。これに対し警察庁は、関係団体の意見や質問を聴取しながら、北海道のようにニホンジカやクマ類の管理についてハーフライフル銃の果たす役割が大きい都道府県にとって不利益がないように、法改正後に現行のライフル銃の所持許可基準の取り扱いの解釈を基に修正した警察庁通達による運用案、特に狩猟・有害鳥獣駆除の用途の解釈について、具体的な事例を挙げて説明を行ってきました。1月26日(ヒグマの会@警察庁)、1月31日(エゾシカ協会@web)、2月2日(エゾシカ協会・ヒグマの会@酪農学園大学)、2月6日(エゾシカ協会@web、他に北海道、北海道猟友会、北海道銃砲火薬商組合、北海道町村会、北海道農業協同組合中央会、占冠村猟区、西興部猟区など)、2月9日(エゾシカ協会、ヒグマの会@web、他に北海道、知床財団)と繰り返し説明が行われました。その中で警察庁の示す資料にも修正が繰り返され、2月9日の衆議院予算委員会で配付された資料が公開扱いとなりました。
警察庁が繰り返し説明しているハーフライフル銃の運用に関する警察庁通達は法改正後に行われ、国会等での審議事項ではありません。エゾシカ協会ならびにヒグマの会は、あくまでハーフライフル銃に新規に規制を加える法改正について反対の立場にあります。
やむを得ず法改正となった際にも、北海道のエゾシカ・ヒグマの適正管理に影響を及ぼさない運用を確実に実行してもらうため、通達による運用に伴い予想される具体的懸念事項を整理して掲載します。
【当初懸念事項】
現行のライフル銃の所持許可の基準(警察庁資料1枚目参照)では、狩猟・有害鳥獣駆除の用途として3要件を上げており、10年未満でライフル銃を所持するには、2点目「事業被害防止のため獣類の捕獲を必要とする者」(*)に該当するか否かが判断の根拠となる。これが何を示すのかという解釈に懸念があった。これまでの実績では、(ア)鳥獣害特措法による被害防止計画に基づく対象鳥獣の捕獲従事者(警察庁通達、令和2年12月22日、警察庁丁保発第209号1(1)ア)、及び(イ)指定管理鳥獣捕獲等事業の委託を受けた認定鳥獣捕獲等事業者の捕獲従事者(同イに該当)であった。この場合、(ウ)ヒグマの市街地出没や公共事業・公益的事業・森林内作業等の従事者の護衛など被害防止計画によらない市町村の鳥獣被害対策実施隊員、(エ)狩猟によりエゾシカ・ヒグマの捕獲を行おうとするもの、が該当しない。さらに、前述の(ア)及び(イ)でライフル銃を所持した場合、ウ)やエ)の用途には使用できないため、別な銃を所持しなければならないとされた事例があった。さらに、(ア)と(イ)でも同様に別々に銃を所持するよう指示された事例も実際に存在している。
【警察庁による提案】
法改正に伴い、ハーフライフル銃をライフル銃として扱う場合、所持許可についてライフル銃とは異なる運用を行う。
1)(警察庁資料2枚目参照)
前述の(ア)及び(イ)に加えて(ウ)の場合においても、銃所持希望者が業務に従事する市町村に依頼し、市町村が従事することを確認できれば推薦書を発行し、銃所持希望者(ハンター)がこれをもって警察に申請することで所持が許可される。さらに、市町村がこの情報を都道府県に情報共有することで、都道府県は確認書を発行することができる。この確認書をあわせて警察に申請することで、(ア)(イ)(ウ)で許可された範囲を越えて、同一の銃を用いて当該都道府県の区域での特定の獣類(北海道の場合、エゾシカ及びヒグマ)の捕獲(狩猟および許可捕獲)を行うことができる。これによりライフル特例では当該市町村・当該事業区域内に限定されていた使用が、当該都道府県全域で、狩猟と許可捕獲の区別なく使用できるようになる。
ただしこの特例だけでは、市町村の許可捕獲や指定管理鳥獣捕獲等事業の従事者だけが該当し、一般狩猟者が対象外となる。そこで以下の運用案が追加されている。
2)(警察庁資料3枚目参照)
一般狩猟を行う銃所持希望者(ハンター)は居住する都道府県警察に銃所持許可申請を行う。これに先立ち、都道府県が狩猟は当該都道府県における「事業被害防止に資する」、というハーフライフル銃の必要性に関する通知を環境省・農林水産省に対し行う。環境省・農林水産省はこれを警察庁に通知し、警察庁は全国の都道府県警察にこの通知を周知する。この通知が、(*)に該当する根拠となり、銃所持許可者が申請にあわせて、通知を発している都道府県で、狩猟、許可捕獲、指定管理鳥獣捕獲等事業により特定の獣類(北海道の場合はエゾシカやヒグマ)を捕獲する意思を伝えることで、審査の後、所持を許可する、というものである。これにより、初めて銃所持を希望する者でも、ハーフライフル銃を所持し、狩猟と許可捕獲の区別なく、同一の銃を使用することができる。ただし、当該都道府県における特定の獣類の捕獲活動実績(捕獲実績ではない)が確認される。捕獲活動実績が確認できない場合には、通達の規定により所持許可が取り消される可能性がある。
【提案に対する質問・懸念事項とコメントおよび提案】(●は警察庁のコメント、→は我々の提案を示す)
1)(警察庁資料2枚目参照)について
・現行のライフル特例においては、通達がありながらも申請を行いにくい、市町村の推薦書が得にくい、申請しても許可までに時間がかかるなど、十分に機能していなかった現状があった。現場レベルで確実な運用を可能とするため、どのような取り組みを考えているか?
●実際のところ、ライフル特例での所持数は全国で100丁に満たない。この通達の存在について、環境省や農林水産省は全国の都道府県及び市町村に対し、また警察庁から都道府県警察に対し十分な周知を行うつもりである。
・現在ライフル特例により10年未満でライフル銃を所持している人は特定市町村や特定事業以外で活用することができていない。この特例をライフル銃に関しても拡大摘要できるよう検討してほしい。
●今回の通達はあくまで激変緩和措置である。以下の2)ですべての場合を満たすとも考えられるが、1)を残すことでライフル銃への拡大の検討余地を残すことにもなる。
2)(警察庁資料3枚目参照)について
・通知を出さない都府県居住者が、北海道での狩猟を希望してハーフライフル銃を所持した場合、居住地での許可捕獲及び狩猟には当該ハーフライフルは使用できないのか? そうであれば、居住地用の銃がもう1丁必要となり無駄な銃が増える。
●どうすべきかについては検討するとの回答。
→多くの都道府県が対象となることにより解消できるので、都道府県からの通知手続きを簡略化する。(例えば、第二種特定鳥獣管理計画を作成している都道府県は、そもそも被害防止を必要としている地域であることから、自動的に対象とする等)
・捕獲実績の有無は何年間で、またどのような方法で判断するのか? 毎年県外に狩猟に行くことは時間的また金銭的にも余裕がないとできないため、複数年で判断してほしい。
●警察庁からは、捕獲活動実績は銃所持許可者が毎年受検する銃検査により確認する予定だが、具体的な確認事項は検討中である。通常の眠り銃になっていないかどうかに加えて、当該都道府県での毎年の捕獲活動の根拠を示す必要がある(捕獲実績や発砲実績がなくても、当該都道府県にて捕獲活動を行った事を示せればよい)。
●警察庁からは、眠り銃同様、やむを得ない事情(病気療養等)があれば考慮されるとの回答。
→道内猟区の入猟実績から、毎年連続して入猟する狩猟者の割合は、A猟区では約2割、B猟区では約7割であった。北海道の場合、猟期にあたる冬期は天候不順により予定通りの行動が困難となることも多く、毎年来道して狩猟を行うことはハードルが高い。そこで、狩猟者登録を実績として扱うことを提案する。狩猟者登録は年ごと、都道府県ごとに狩猟税(16,500円)を支払ってするものなので実績確認が可能である。なおこれまでの事例から、病気等やむを得ない事情について考慮される可能性は低いと考えている。
3)まとめ
北海道のようにハーフライフル銃の狩猟・許可捕獲・指定管理鳥獣捕獲等事業による捕獲がエゾシカおよびヒグマの管理に重要な役割を果たしている都道府県では、今回の法改正がその管理計画に影響を及ぼさないよう、通達による運用を確実に行っていただきたい。たとえ法改正するにしても、北海道における銃猟の狩猟登録者数や許可捕獲従事者数が減少せず、銃によるエゾシカやヒグマの捕獲数も減少しないような運用を期待する。
参照文献
エゾシカ管理のグランドデザイン(エゾシカ協会、2018年7月9日発行)
ヒグマと向き合うグランドデザイン(ヒグマの会、2023年7月19日発行)