三枝聖著、築地書館、2018年

法昆虫学のはなし。虫を手がかりに死後経過時間を推定する。死体につく最大サイズのウジを採取し、成長のようすから産卵期を逆算する。ヒロズキンバエは卵から羽化まで2〜3週間。3齢幼虫までしかいないなら約3日目、さなぎがあったら約8日目といった具合である。「○時から○時」のような細かさはない。ハエだけでなく、スズメバチ、ホシカムシ、カツオブシムシなどが屍肉に群がる。これらの虫もおもしろそうだ。
狩猟現場で感じるのは、虫の、獣を発見する驚異的なスピードである。血のにおい(?)でもくるが、その前にもう現着している。汗や呼吸だろうか、本当にすごい。鳥もくるがそこまで早くはない。さまざまな生き物が解体作業を見守り、早期終了・撤退と散らかしを願っているように感じる。われわれも含め、死体がいかに貴重な(食用)資源かを思い知らされる。分解は共同作業とはいかないが(ウジも獣に食われる)、死体は生命のホットスポットであり、それぞれの嗅覚と消化能力で生命を育んでいる。いつもこぞって集まってくるので、私は「孤独死」など存在せず、常ににぎやかなものになると考えている。
著者はブタの死体に服を着せ、腐敗と虫の関係を経過観察している。鳥や獣は排除しているようだが、これらによる序盤の物理的解体はその後の分解速度に大きく影響している気がする。(2025年3月記)