西村裕子著、岩波書店、2023年

ファッション業界において、ルイヴィトンやシャネルなどハイブランドの高級革製品の人気が上がる一方で、アウトロー界隈でもレジスタンスの象徴として革が好まれている。皮革はこのような地位を築いているが、歴史的には、差別の対象とした人々から労働力を不当に搾取してきた背景がある。

家畜から、肉の副産物として生皮がとれる。それが高級バッグになる過程で、誰が儲かっているのか、労働の対価は正当に支払われているのか、本書だけでは疑問が残る。

現在は安い労働力を当てにするわけにもいかず、なめし技術も向上してきた。本書によると、中国やインドの皮革市場の勃興が目覚ましいが、日本は対抗するほどの競争力をもっていない。今後、日本産の皮革は、シャネルに匹敵するハイブランドを目指すのか? 低価格にして普及するのか? 愛護論者からの批判に配慮して非動物の素材を追究するのか? とにかく盛り上がってほしいし、一度途絶えると復元が難しい技術を承継し、遺してほしい。

日本の野生動物も冬を越せるほどすばらしい毛皮をもっているが、ほぼ捨てられている。狩猟しながら自分で皮なめしをするのは体力的にとてもきつく、仕上がりもよくない。私は新潟の布川産業になめしを依頼している。1頭から扱ってくれており、脂臭のしない美しい仕上がりで戻ってくる。特にアライグマとタヌキはすばらしい。イノシシのハズレとガッカリしてないで、なめしてみてはいかがだろうか。(2025年3月記)