一般社団法人エゾシカ協会

「本当の豊かさ」はブッシュマンが知っている

ジェイムス・スーズマン著、佐々木知子訳、NHK出版、2019年

ナミビアのブッシュマンと暮らし、調査した人類学者の記録。狩猟の詳細ではなく社会的な話題が中心。

残念なことに、若者は狩猟能力を失っており、かつての狩猟採集に戻ることはできない。ブッシュマン社会は120年前のドイツ人による大量虐殺で深い傷を負い、その影響は今も色濃く残っている。現代社会を生きていくにあたって労働らしい労働をほとんどすることなく、貧しいながらも「豊か」な暮らしをしている。AI化などで仕事がなくなっていくようなら、もしかしたら参考になる生き方かもしれない。もはや狩猟採集生活こそ贅沢なのだろうか。

狩猟者が獲物を持ち帰り、周囲に分配するとき、けなされ、侮辱されるのがマナーである。初心者の偶然のラッキーを戒め、思い上がらせないようにする効果がある。富の偏りを極度に嫌い、格差を生まない平和な社会について、欲望まみれの都市生活者には考えさせられることが多い。(2025年5月記)