伊東俊太郎編、河出書房新社、1995年

日本人の自然観についての論考集。刊行当時は環境破壊の進行と自然の価値の見直しが意識されつつあった。縄文・古代から現代までの、それぞれの時代の専門家が執筆しているが、万葉集など資料の少ない初期は、さすがに自然観探しに苦戦している。
近代に科学が日本に入ってきた当初、日本人に科学ができるのか、との懸念があった。日本人にとって自然は移り変わるものである(ゆく川の流れは絶えずしてしかももとの水にあらず)。そのなかで普遍的で絶対的な法則を導き出すことができるのか。カエルの動きを俳句に詠み愛でてきた日本人が、学校で解剖や生理実験をするようになるのか、という心配があったのである。
クマ出没の対応や外来種政策など、野生動物管理上の議論が起きているものの、近頃はこうした分野の本は流行っていないのか、あまり見かけないのが残念である。民俗学や動物倫理学などの盛り上がりを期待したい。