塚田宏幸 (バルコ札幌)
偏見の目は、徐々に期待の目に変わってきている。
一部の熱心なシェフだけではなく、多くの消費者やフード関係者の関心が集まりだし、盛んに料理が作り出され、我々に馴染みあるスープカレーやジンギスカンにエゾシカ肉が使われ始めている。
「こんないい状態のお肉が手に入るなら牛肉のフィレにも負けない」
「北海道のエゾシカは日本一、いや世界一のジビエかもしれない」
と言う声もシェフから聞く。
しかし世界を見れば、欧州・中国などで鹿肉は食文化として根付いており、高級食材として珍重されている。
中国料理の石井登シェフは、2月24日に行なわれたセミナーでこんな事を話されていた。
「中国では鹿肉は薬膳料理として家禽類の中で最上位に位置する食材です。数多くの富と名誉を手に入れた秦の始皇帝は不老不死を、女傑・西太后は永遠の美しさを求めて鹿料理を食べていたとされています。それらは文献にも頻繁に登場するのですが、特に美食家としても名高い西太后の日常食は、まさに医食同源です。その貪欲さは驚くほどで、美容と健康、長寿を願うあまり、1食100品近く並べられた料理の中で口に合わない料理があれば、すぐに作り手の料理人の首をはねたという……」
首をはねるとは、なんて貪欲な……。しかし、頻繁に鹿肉を食べていたようで、その魅力は西太后も認めるところだったのだろう。後日調べた文献によると、西太后は72歳まで自前の歯でシミのない潤いのある若肌を保っていたそうだ。
薬膳料理の魅力は、同日のロイトン札幌で開かれた試食会で体験した。コラーゲンたっぷりのアキレス腱の煮込み、香草を使ったスペアリブ、エゾシカの薬膳スープなど、美容にも健康にも良さそうなお料理の数々。お料理を担当されていた前川勉シェフによると、鹿料理のポイントは下処理だそうで、市販のタレや香草で一晩下味を漬ければ家庭でも簡単に料理できると話されていた。
先日TV番組でダイエット食として鹿肉料理を紹介していたが、低脂肪で高たんぱくなのだからそれもうなずける。
食べて美味しく・美しく・健康的に……。シカ肉を食べる機会はますます広がるだろう。
エゾシカ協会ニューズレター20号に掲載