一般社団法人エゾシカ協会

付け合わせ


塚田宏幸 (バルコ札幌)

 料理を作る上で、食材の「背景」を紐解くことは美味しさへの近道である。例えば、われわれの食材となる生き物自身が、何を食べて育っているかを知ることもその一つ。漁師町でみんなで料理をした時の話だが、ウニの殻を剥いていると、お手伝いしてくれていた方に「このウニの中にある黒いのは何か」と尋ねられた。「それはウニの主食の昆布や海藻だ」と答え、焼き網の上に一枚の昆布を敷いた上で焼きウニを作って、その相性のよさを確かめた。食物連鎖上にある食材(彼らの好物と想像される)を合わせると、自然と両者の味が溶け合って美味しさが増す料理を、私はいくつか経験してきている。

(c)Hiroyuki Tsukada 2012 この「理論」をエゾシカに当てはめて考えてみたい。エゾシカは何を食べているか? 飼育された状態を除き、野生動物であるエゾシカが何を食べて育ったか知ることは非常に困難なので、農業被害のデータから、彼らの好物と想像される食材をピックアップしてみよう。

 農業被害額の半分は牧草で、残り半分が小麦、テンサイ、水稲、馬鈴薯、果菜(トウモロコシ、キュウリ、カボチャなど)、大根、人参、小豆、大豆などで占められている。農作物以外に、もちろん山野に生える様々な草木ももりもりと食べているのだろう。それらは、木の芽や若葉、ドングリから、冬場は笹や樹皮にまで至る。

 このデータと見ると、エゾシカは非常に多様なものを食べて育っている印象を受ける。列挙した中には根菜もあるが、とある農家さんに聞いた話だと、収穫間際に掘って食べていくそうだ。なんという図太さ!!

 いくらエゾシカが好むからといって、さすがに牧草や樹皮を食材として料理に取り込んでいくのはとても独創性のいることだが、他のものは調理することでエゾシカとの相性も良さそうなものが多い。

 私は皮肉を込めて(食味相性がいいことは前提として)、エゾシカ料理の皿にこれらエゾシカが好きであろう山菜や山のハーブ、農産物を一緒に盛り付けることが多い。山菜や山のハーブの例としては、行者にんにく、山葡萄、山椒、シケレペなどがある。(シケレペについては第6回に詳しく触れています。)

 みなさんもぜひ、お皿の上でエゾシカの食物連鎖を表現してみてください。

写真はエゾシカのロースト、トウモロコシの付け合わせ、山ぶどうのマスタードソースがけ。バルコ札幌で撮影。


エゾシカ協会ニューズレター33号に掲載

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