一般社団法人エゾシカ協会

エゾシカ料理教室


塚田宏幸 (バルコ札幌)

 ベリージュース、いちごジュース、パイナップルジュース、オレンジジュース。

 この4種類を飲み比べて、どれがオレンジジュースかを当てるとしたら……皆さんは自信アリだろうか。

 ある調査データによると、正解率は国ごとに89~70%と開きがあったという。日本の私たちからすると、「正解率70%」は信じられないくらい低い。でも、成績の悪かったその国の人たちが、特に味覚が鈍いというわけではなかったらしい。単純に「普段これらのジュースを飲む習慣が少ないから」というのが要因だった。

 そもそも味覚は、かなりあいまいな感覚だ。自分が感じる味と、他人が感じる味が同じとは限らない。自分で食べることによってしか、その感覚を鍛えることはできない。私たちは食事を繰り返すことでそれぞれの食材の味を記憶していくが、この記憶にすら個人差がある。 だから、ふだんから飲み慣れていなければ、たとえオレンジジュースでも、他のジュースと見分けがつかなくて当たり前なのだ。

 さて、昨年から今年にかけて、「プロに習うおいしいエゾシカ肉料理教室」という一般向けの無料イベントが、道内各地域で十数回にわたって開かれた。家庭にエゾシカ料理をもっと普及させようというもので、各回ごと、担当シェフが趣向を凝らしたレシピを伝授した。

 私が担当した回では、「エゾシカのハンバーグ」を作った。材料のお肉は、豚肉とエゾシカ肉の合挽きである。おいしそうに焼き上がり、あつあつのハンバーグを全員で試食していた時のことだ。

「エゾシカ肉と豚肉で作ったハンバーグなのに、牛豚の合挽きで作ったハンバーグと似ている」という声が上がった。

 たしかに、エゾシカ肉の食感は牛の赤身肉に近い。だが、味や香りは似て非なるもの。

 私は先ほどのジュース・テストのことを思い出した。――今の北海道では、エゾシカ肉はまだ「正解率70%の国のオレンジジュース」なんだ、と。

 エゾシカ肉を家庭の食卓で食べる習慣は、まだ一般的とは言えない。だからエゾシカ肉を牛肉と間違える人が多いのは、当たり前だ。

 でも、きっとこれから劇的に変わっていくんだろうと思う。エゾシカ肉が、味の良さはもちろん、価格面、栄養面からも、家庭での普段使いに向いた食材であることは間違いない。

 料理教室には、小学生の子どもたちもたくさん参加してくれた。牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉、そしてエゾシカ肉……。北海道で生産されるさまざまなお肉を食べ比べて、「これはエゾシカ肉!」とハッキリ答えられる世代が、すでに育ち始めている。

「プロに習うおいしいエゾシカ肉料理教室」で紹介したレシピの一部をインターネットでご覧いただけます。ご家庭料理として参考していただければ幸いです。


エゾシカ協会ニューズレター32号に掲載

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