塚田宏幸 (バルコ札幌)
これがDiots au vin blanc。巨大な鍋で煮込む。撮影筆者 |
しんとして 幅廣き街の 秋の夜の
玉蜀黍の 焼くるにほひよ (石川啄木)
明治後半に札幌を訪れた石川啄木が、大通公園のトウキビやジャガイモの屋台を詠んでいる。大通公園での食べ歩きは当時から札幌名物だったようだ。
そんな想いを現世も受け継ぎ、大通公園では四季を通じて様々なイベントが開催されている。この秋も、「北海道・札幌の食」をテーマに道内各地の旬の食材やご当地グルメなどを集めた「さっぽろオータムフェスト」が開催され、賑わいをみせていた。
会場を歩いてみると、焦がし醤油や炭火のなんとも言えないいい香りが漂い、ついフラフラ蛇行してしまう。中にはラーメンやソーセージに変貌したエゾシカ料理もあった。ちょうど「エゾシカひとつちょうだい!」という声が聞こえてくる。
数年前、エゾシカの行商を手伝ったことがある。その時は「エゾシカを食べるの?」「カワイソウ……」という声が圧倒的だった。それが今やハッキリと「エゾシカひとつちょうだい!」の声。この数年の各関係者の努力と、美味しいものに向かう消費者の気持ちを改めて感じた次第。
さて、こうして屋台料理を食べ歩いてもうひとつ感じたのが、地方料理の大切さである。
冷暖房なしの屋外では、この冷たい秋風をも吹き飛ばす料理が何よりありがたい。こってり脂が浮いた札幌ラーメンのスープは、高カロリーの脂質で体を温め、なおかつ麺が冷めないように工夫されている。スープカレーは、多様なスパイスとスープが体を温める。もちろん、この地に根づくまでにたくさんの試行錯誤と努力があったのだろうが、北国の料理人たちが「温かさ」を追求してたどりついた境地、というこの仮説、ご納得いただけませんか?
海外に目を向けると、フランスの山岳地帯に位置するサヴォワ地方に、Diots au vin blanc(ディオの白ワイン煮)という屋台料理がある。ディオと呼ばれるソーセージを、玉ねぎと一緒にフライパンで炒め、黒胡椒・ローリエ・タイム・ローズマリーなどのハーブとともに、白ワインとブイヨンで作る煮込み料理なのだが、それを直径なんと1m以上の浅鍋で作るのである。
小柄なおばさんがこの大鍋に向かい、大きな木べらをグルグルとかき混ぜる姿に、私は大通公園のとうきび屋台のおばさんを重ねてしまう。出来上がったディオをホットドックの要領でパンに包み、トロトロに煮えた玉ねぎとスープをかけるとアツアツ・ディオ・サンドイッチの完成!! 一口食べると体の中がポカポカと温まる、山国サヴォワならではの食べ方だ。
大通公園の冬。このディオの白ワイン煮をエゾシカソーセージで食べたいなぁという私の気持ちはさておき、大通公園が公園として整備され、今年でちょうど100年。今も変わらず市民に愛されている。
エゾシカ協会ニューズレター27号に掲載