塚田宏幸 (バルコ札幌)
フランスのマルシェにて(撮影筆者) |
雪の降り始めから初春にかけて、日本では「鱈(たら)」が旬を迎える。プリっと淡白な白身は、たらちり鍋・煮付けをはじめ料理法によって多彩に変化し、私たちを楽しませてくれる。漢字にも書き慣わされているように、鱈をこの時期に口にしないとどうも落ち着かない。鱈は日本の冬を代表する食材のひとつだ。
海を越え、古くより狩猟民族として野山の幸を多く食してきたヨーロッパ人にも、この時期、楽しみにしている食材がある。ジビエ(狩猟鳥獣肉)だ。彼らは古来、ジビエを、鶏や豚などの家畜肉とは一線を駕して扱ってきた。例えば中世のフランスでは、捕獲の難しい鶴や孔雀を「勇者の肉」として扱い、ジビエ料理は儀式に欠かせない料理だったという。それほど野生動物の命は尊く、特別なもの(天からの恵み)として尊重されていたのだ。今でも彼らのジビエに対するこだわり方は半端ではなく、日本人には理解しがたいほどだが、まあそれは、ナマの魚肉(刺身)を食す日本人の食文化にヨーロッパ人たちが面喰らうこともあるだろうから、お互い様か。
フランスでは、ジビエは、毎年猟の解禁するわずかな期間(フランスでは10月中旬~2月中旬まで)、レストランや家庭のメニューを彩る。この頃、町の食肉店やマルシェ(市場)には狩猟肉が一斉に並ぶそうだ。私が訪ねた9月は、まだ時期が早く狩猟肉は見かけなかったが、あるマルシェの店主が「うちももうじきジビエを売るよ」と教えてくれた。ジビエとなる野生動物は、自由に野山を駆け回り好きな餌を食べて育つため、養殖の家畜と比べ、素材それぞれに力強い個性があり、焼いた時や食べた時に感じる強い香りと味が魅力だ。店主によると、料理自慢のお母さんたちが週末のご馳走としてジビエを買っていくそうだが、日本とは違い、一般家庭の主婦たちもジビエの調理法をちゃんと心得ていることに私は驚いた。
日本でも、家畜より先に狩猟肉を食べていたはずだが、ここ100年程で日本の狩猟肉文化はすっかり衰退してしまった。いま再び、日本のジビエ文化復活を図る時、入り口としては鹿肉がオススメだ。というのも、ジビエの中で鹿肉は比較的癖がなく、「初級者」が食べやすい。そのうえ「上級者」にも好まれる。春鹿はサッパリとした味わい、発情期を迎える秋は香りが強くなり、寒くなるほど脂がのる。季節ごとに風味の変化を楽しめるのだ。ぜひ、この違いもお楽しみいただきたい。
冒頭に上げた鱈を含む、日本食文化が海外で注目される中、自国の食文化を見つめなおす事はもちろん、ヨーロッパの食文化から何を新たに学ぶのか、今年は、鱈とエゾシカを食べながらじっくり考えてみたい。
エゾシカ協会ニューズレター21号に掲載