一般社団法人エゾシカ協会

バイエルンの家庭料理


塚田宏幸 (バルコ札幌)

ジビエ専門のマルシェ。シカの頭がい骨がトレードマーク
ショーケースの中は肉や加工品が並ぶ
バイエルンの家庭料理「アカシカのワイン煮」
筆者撮影

 山の木々が色づき始める季節、食に纏(まつ)わるエコツアーをコーディネートして渡欧した。ツアーを無事に終えてゲストたちを見送った後、しばらく休暇としゃれ込むことにする。ガイドを務めてくれた相棒とともにぶらり放浪することにしたのだ。寝袋と食料をレンタカーに積み、気の向くままに各地を訪ね歩く。

 こんな旅はとても楽しいものだが、唯一苦労するのが風呂。日本と違ってどこにでも銭湯があるというわけではない。だんだんヨゴレが気になってきて、いっそ川にでも飛び込もうかと迷い始めたころ、相棒がドイツ・ミュンヘン郊外に住む知人と連絡を取り、数日ご厄介になることに。

 温かく迎えてくれたのはドイツ人の夫君と日本人の奥方のヨハネス夫妻だ。夫妻は二人とも食べることが大好きで、同じ食いしん坊の血が流れているコトが判明するや、私たちはすぐに意気投合した。
「ドイツではジャガイモ料理を100種は作れないと姑がうるさいのよ」と奥さん。
「じゃあ北海道の姑さんは優しいんだな。50で許してくれますよ」と私。

 奥さんはあははと笑って、奥の本棚からバイエルンの伝統料理のレシピ本を運んできてくれた。テーブルに置くとき、ドスンっと音がするほど分厚い。「100種」は誇張じゃなかったみたいだ。

 ドイツでも内陸部に位置するここバイエルン地方では、昔は海から魚を運んでくるのは難しかったのだろう、農作物と肉を使った料理が主に掲載されている。「Rotwild(アカシカ)」の料理も多数。

「シカ料理は特にご馳走なんだ」と、地元育ちの夫君が教えてくれた。

「そうだ、明日はマルシェ(市場)が開くから、シカ肉を見に行ってみるかい?」

 翌日、夫婦とマルシェへ。暫く歩いていくと、シカの頭がい骨を並べて看板にしたお店が。ここだ。

 ショーケースを覗き込むと、シカやイノシシ、ウサギ、それにいろいろな種類の野鳥などの肉類はもちろん、お酒を効かせたレバーペースト、血入りのソーセージ、これまたたくさんの種類のハムなどがびっしりと並んでいる。。私は迷った末にアカシカの肉を1キロほど購入し、奥さんにバイエルン料理を頼んだ。

 3時間後。私のシカ肉はマジョラム、タイム、干し葡萄、唐辛子などのスパイスで味付けされ、ブイヨンと赤ワインで煮込まれて「バイエルン流アカシカのワイン煮」となってテーブルに登場した。付け合わせは、近郊で採れたベリーのジャム。甘酸っぱいジャムと力強いワイン煮はとっても相性がよく、食もお酒もどんどん進む。サイドディッシュはもちろんジャガイモ料理!! ドイツの田舎のお姑さんの想いと、伝統に裏づけされた確かな味を、私はかみ締めた。


エゾシカ協会ニューズレター24号に掲載

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